アドルフ・ヒトラー　400の言葉

世界を変えた意思の言葉

ーまえがきよりー

ある３０歳をすぎた職歴のない無職の落ちこぼれが、孤軍奮闘し、やがて国の党首となった。のみならず、国の経済を立て直し失業率をゼロにし、やがて世界中を巻き込む世界大戦を引き起こし、世界史をも変えてしまった。

―それを成し遂げた男の名はアドルフ・ヒトラー。

世界史上、稀にみる数奇な運命を辿ったこの男。

生まれてから、はじめは落ちこぼれていた。

実家学校（日本でいう中学・高校）も卒業できず、美術学校の受験にも失敗した。１８歳から２５歳まで、はじめはウイーンで、それからミュンヘンで、建築家を夢見るも挫折し、職にも就かず、職に就くあてもなく、ボヘミアンのような生活を送っていた。

孤児恩給をもらい、時々、自分の画いた絵を売って、どうにか食いつないでいた。

１９１４年に第一次世界大戦が勃発すると、志願してバイエルンの軍隊に入った。４年間前線で戦い、第一級、第二級の鉄十字勲章をもらった。戦争末期にガス弾を浴びて、負傷し、国内の野戦病院に送りこまれ、そこで終戦を迎えた。

ガス弾による目の怪我。一時期は目がみえなくなり、目の前は真っ暗だった。将来の先も見えなかった。

「兵営居住者」として一年間軍隊にとどまったが、この時も人生の計画は立たず、職を得る見通しもなかった。いつの間にか３０歳を過ぎていた。

１９１９年の秋、人生に挫折したはずのこの男は、小さな極右政党（ドイツ労働者党）に入った。彼の政治キャリアはここからはじまった。

―やがて、彼は最後には歴史に名を刻んだ。

あやしげな生活無能者として過ごし、その後にわかに田舎の大物政治家にのし上がり、ついには世界政治を動かすようにまでなったヒトラー。

やがて、世界中を戦争に巻き込んだ張本人として「悪」の権化のように扱われ、世界中から嫌われるまでになったヒトラー。

だが、はたして彼は本当に「悪の権化」といえるような人間だったのか？そもそも「悪」とは何なのか？「正義」とは？

「闘争は存在するものの全ての宿命」

「偉大な嘘つきは、偉大な魔術師でもある」

「熱狂した大衆だけが操縦可能になる」

「わたしはすべてを説得によってなしとげた」

「命令する意志がなければ、何一つできはしない」

ヒトラーの言葉は人間の意識を変え、価値観を一変させる力を持つ。

ヒトラーを知ることによって読者は、人と組織のリーダーシップ、人間と世界とのつながり、国家、国民（民族）のあり方、人生への考察といったものをみる。そこには、一人の人間の葛藤、国家を背負った男の葛藤がみえてくる。

世界の歴史家でもその彼の残した言葉や信条・思想を本当に知る者は少ない。もし、ヒトラーのような人間が、人類史上二度と現れてはいけない存在だとしても、彼は現実に一国（ドイツ）を動かした人間であった。

その人間が、何を、どう語り、どう行動した結果、彼が一国のトップに立ち、その後の世界を変えたのかについて知ることには意義がある。

本書では確かな史料から、ヒトラーの言説を追った。実際にヒトラーが述べた言葉、証言記録をまとめた。

読者は、彼の言動を知ることで、彼の人生を読み解き、彼のもった別の一つの世界観・人生観を探ってほしい。

（巻末にはヒトラーの青年時代の親友・アウグスト・クビツェクへの手紙を掲載した）